2011年04月09日 03:43
からくり民主主義
高橋 秀実
草思社 2002-06
ひとつひとつ章を追って、本書を最後まで読み終えたとき、たぶん僕らはこう思う。なんという困った社会に僕らは生きているのか、と。僕らは腕組みをしたり、頭をかいたりするかもしれない。でも好むと好まざるとにかかわらず、それが僕らの住んでいる世界なのだ。僕らはその中で生きていくしかないのだ。そこからむりに出ていこうとすれば、僕らの行き先は「本当ではない場所」になってしまう。それが結局のところ、この本の結論になるのではないか(たぶん)。
虐げられ、生活に困窮した人たちの住処に原発誘致話が持ちかけられる。裏で手薬煉を引くのは福井出身の原子力委員会委員長。用地買収の斡旋から工事まで勤めるのは、その委員長が会長を勤める土木会社。そして彼は科学技術庁長官まで登りつめる。
「建設反対運動は大切」補償金を吊り上げるための交渉術。比率は賛成55、反対45位が丁度良い。反対する人がいないと安全管理をしっかりやってもらえないから。でも原発に頼らざるをえないので賛成が少し多め。
それでたっぷりと補償金をもらう。実際漁で生計を立てていなくても組合員だったら権利を補償してもらえる。
電力会社からの固定資産税等は町税の73%、橋ができ道路ができすべてが整備される。それでも余るお金、過疎化が進む自治体は計画性の無いリゾート開発に費やす。その開発もくだんの土木会社が入っている。他県から人集めが目的の開発なのだが、原発の周りは低人口地帯であることが義務付けされている。
ただ一人まじめに反対している共産党町議。地元の人々は「正しい反対」というらしい。電力会社と地元住民が繰り広げる「虚構の対立」、それを現実とつなぎとめる「潤滑油」的存在なのだと。
自治体では、大事故に備えた防災訓練がこれまで一度も行われていなかった。「町独自の対策は考えていない」と国に身を委ねる町役場の助役。「あの原発が爆発したら日本列島が全滅。そしたらどこに逃げてもしゃあない」と地元の人。